「あなたはとてもいい人よ」
と、おっしゃるなら、恋人になってくれてもよさそうなものなのに、この後に決まって、
「でも……」
という言葉が続きます。
ということは、
〈いい人〉⇔〈魅力的な人〉
であり、
〈いい人〉=〈よくない人〉
ということになるのではないか……
そういう結論に達した私は、歪んでいるのでしょうか?
でも、
「でもね……」
と何度も言われてきた結果、
『いい人なんかになるもんか!』
と強く決心するのは、間違っているとは言えないと思います。
ですから、魅力的な人、たとえば言葉巧みにおもしろおかしいことをジェスチャーたっぷりに吹聴しては誰かを魅了するような人間になろうとしましたが、それを試みるたびに、
「ああ、おもしろかった……じゃあね」
と、笑顔で去っていく女性たちの後ろ姿を見送りながら、最近は、
『おおしろい人なんかもう止めだ!』
と心に固く決めて、次は〈いい人〉でも〈おもしろい人〉でもない〈かっこいい人〉になろうと思いました……
しかし、よくよく考えてみると、かっこよくないから〈いい人〉だったわけで、何とか努力して〈おもしろい人〉と言われるようになっても事態は好転せず、後は〈卑怯者〉にでもなろうかと考えています。
ただ、
「卑怯者!」
と言われて、音高く頬をぶたれて絶交されるのがオチのような気もしますので、いっそ〈曲者〉にでもなると、〈忍者〉のようでかっこいいかもしれません。
〈曲者〉とか〈忍者〉とか呼ばれると、正体のわからないミステリアスな人間のイメージが湧いてきますが、
「お前は何者だ」
と、本当に問われたら、私はどう答えたらいいのでしょうか?
いいえ、そもそも私は〈何者〉なのでしょうか?
それとも、〈何者〉でもないがゆえに、〈いい人〉を演じていただけなのかもしれません。
寒行や いい人止める 怖さ知る