残念な吸血鬼の条件

吸血鬼には、必要な条件がいくつかあります。

 

まず、夜型の生活を営む習性があること。ただし、寝起きの悪い吸血鬼は、かっこよくありません。

寝るときも起きるときも、ぐずぐずしないことが吸血鬼がかっこよくあるための必須条件です。ただし、あなたが大きな古城に一人で暮らす吸血鬼なら、それでもかまいません。一般社会に生きる人間の、吸血鬼に対するイメージを損なうことはありませんから。

イメージを損なわない、という意味では、外出時の服装、身だしなみにも気をつけなければなりません。ぼさぼさ頭のトレーナー姿でコンビニエンスストアーにトマトジュースを買いにいくなど、もってのほか。たとえ、近所にちょっとした買い物に行く場合であっても、黒い蝶ネクタイに燕尾服で出かけるべきです。

 

次に、虫歯であってはいけません。特に糸切り歯、相手の首筋にある血管に突き立てる犬歯が虫歯では、吸血行為に支障をきたします。

また、虫歯のまま相手の血を吸おうとするのは、歯磨きもせず口臭を吐きながら口づけに及ぼうとするのと同じだと心得てください。虫歯や歯槽膿漏で相手に触れないことは、吸血鬼の最低限のエチケットです。

ですから、もし、少しでも歯に違和感を覚えたなら、即刻歯科医に行かなければなりません。

「歯医者は嫌いだ〜」

などと駄駄をこねているうちは、まだまだ本物の吸血鬼ではありません。

もちろん、蝶ネクタイに燕尾服で出かけて、平然といすに腰をおろし、超然と口を開けるのが、正しい吸血鬼の作法です。

ちなみに、若くて美人の歯科助手、もしくはイケメンの歯科医にいきなり襲いかかってはいけません。

さりげなくディナーの約束を取り付けることから始めるのが、吸血鬼のマナーです。

 

そして何より吸血鬼に必要な条件が、審美眼に優れていることです。

血を吸われた女性、あるいは男性は、そのまま永遠の命を手に入れた吸血鬼になって、新たに人間の血を吸わなければなりません。

想像してください。

醜悪な面貌の吸血鬼に、誰が首筋を曝すでしょう。

つまり、吸血鬼の最も重要な条件は、優れた審美眼を持った、美しい男性、あるいは女性であることです。

 

残念ながら、私は、以上の条件、特に最後の条件を満たしていないようで、未だに吸血鬼になることができません……