『田の久』という昔話を御存知ですか?
田の久という旅回りの役者が山中でうわばみに遭遇しましたが、うまく難を逃れます。
そのとき、お互いに怖いモノを教え合いました。
うわばみの怖いモノは、たばこのやにと柿の渋。
田の久は、お金と答え、後日、田の久はたばこのやにと柿の渋を使ってうわばみを退治しました。
その後、田の久はうわばみにお金をたくさん家に投げ入れられて仕返しをされましたが、もちろん田の久は大金持ちになったというお話です。
昔話そのままの『田野久』という江戸落語もありますが、この手を利用した『饅頭こわい』が一般には知られている噺かと思います。
長屋の嫌われ者が、
「何が怖いか」
と問われて、大好きな饅頭が怖いと偽り、長屋の連中に饅頭を投げ込ませるという噺です。
村上春樹氏の短編小説『鏡』は、怖い話を語る百物語に形を借りた怪談ですが、テーマは、
《人間にとって、自分自身以上に怖いものがこの世にあるだろうか》
です。
先日、『饅頭こわい』を得意ネタにしている友人から、
「何が怖いか?」
と尋ねられましたので、私は、正直に、
「女性」
と答えました。
それを友人がどう解釈したかはわかりませんが、私は、そんなことを口にしてしまった自分自身が、やっぱり一番怖いかもしれないと思いました。