三題噺・鯉子の恋

お題をいただきました。

 

『100万円』『新参者』『屋根』

 

ある山の中にございます大金持ちのお屋敷の庭に、高価な鯉が何匹も飼われている大きな池がありました。

その中で、二匹の錦鯉が話しております。

 

「鯉子」

「ん? なに?」

「あんた、最近、元気がないみたいやけど。どこか具合が悪いんやないの」

「悪いところなんて、どこもないわ」

「ほな、どないしたんよ」

「ああ…… こないだ、ほら、新しく入ってきた……」

「新しく入ってきた……? ああ、鯉四郎とかいう新参者?」

「そう、その鯉四郎さんのことが、なんや気になってしもうて……」

「まあ、鯉が恋煩い」

「茶化さんといてよ」

「けど、あの鯉四郎は止めた方がええよ」

「わかってる。鯉四郎さんは500万円の鯉。私はたったの100万円。釣り合わへんのは、よう分かっているんやけど……」

「違う違う、そうやない。500万でも100万でも、コイに上下はあらへんわ」

「また、そんな、てんご言うて…… けど、そんなら、なんで止めたほうがええって言うの?」

「あの鯉四郎、自分が500万の鯉や言うて、新参者のくせに、えらい大きな口きくで」

「そら、500万円で身体も大きいさかいに口も大きいけれど、それだけ他の鯉とは違うっていうことやないの…… ほら、鯉四郎さん、池の中から、誰よりも高うに飛び跳ねるやでしょ。お屋敷の屋根よりも高うに」

「屋根よ〜り高い鯉のぼり〜 風を食ろうて口をぱくぱくするだけで、中身はからっぽ! あれが500万円なんて詐欺みたいなもんや」

「また、そんなことを言うて……」

てなことを話しておりましたところへ、件の鯉四郎がやって参ります。

「なに? わいが屋根より高うに飛び跳ねるのを見たい?」

「誰もそんなこと言うてへんわ」

「へへん、まあ、見とけ!」

そう言うなり、鯉四郎が池の中から勢いよく飛び跳ますと、空から鷺が飛んで参りまして、その鯉四郎をさらっていってしまいました。

「ああ、500万円、サギにやられた」

                             デンデン