我々の世界

「就職、どうするの?」

「まあ、朝は少しゆっくりして、残業なんかはなくて、それで月給が20万以上あるところがええな」

「そんな動物園みたいなとこ、ないで」

「え? 動物園?」

 

相手が落語の『動物園』を知らないと、この話は通じません。

 

「ああ、あたしもあんたに、あやかりたいかやつりたい!」

「あやかりたいとうのはわかりますが、そのあとの、かやつりたい、というのは何ですか?」

 

職場でこれが通じないと言って我々の世界の人間が嘆いておりました。

実は、我々の世界の人間はかなりのマイノリティーで、それを一般社会で見せてしまうと、奇異の目で見られてしまいます。

ですから、我々の世界の人間は、普段は自分を押し殺し、さあ、落語会の打ち上げだ〜てなことになりますと、日頃の鬱憤を晴らすかのようにドッカンドッカンと爆笑し続けることになります。

ほとんど秘密結社の神聖な儀式でトランス状態に陥るメンバーと変わりません。いえ、危険視される宗教団体の教祖の集会と言われても仕方がないかもしれません。

 

「え? 源やんが女の子に、声、かけた? あ、源やんは色事師、あ、源やんは色事師、色事師は源やん、わ〜い!」

てなノリを全世界ににあまねく広げることができると、世界平和に貢献できるのではないかと思いますが、

「え? 源やんが女の子に、声、かけた? あ、源やんは色事師、あ、源やんは色事師、色事師は…… おまえ、なんで一緒にやれへんねん。え、知らん? ……あのな、我々の世界の人間になると、世界はバラ色に変わるぞ…… え? それは悪魔のささやきかって? いや、われわれは悪魔ではなく…… え? 危険な宗教団体?」

どうあがいても、我々はマイノリティーであり続けなければならないのかもしれません。