去年の新聞を読む男

今朝、通勤電車の中で不思議な人を見ました。

ちょっと年配の男性で、座席に座って日経新聞を読んでいました。

その新聞を斜め後ろから何気なくのぞいてみると、紙面の左側には大相撲の照の富士関の勝った写真が掲載されており、その右側にはプロ野球日本ハムの大谷投手が完投勝利をあげた写真が載っていました。

「スポーツ欄か……」

と思いましたが、ふと、

「年内の大相撲の本場所はもう終わっているし、プロ野球もシーズンはとっくに終了している……」

と、気づいてしまいました。

いつの新聞だろうと、確かめると、なんと去年の7月の新聞でした。

といって、よくある古新聞のように、色は褪せていません。

いったいどこで手に入れたのか……

改めて男性の身なりを確かめました。

立派とは言えませんが、決してみすぼらしいという印象はありません。

奇異なところもありません。

ひょっとすると新聞社で印刷を担当しているのかもしれませんが、それにしても、どうして1年以上前の新聞を、通勤電車で開いているのでしょうか……

それとも、ちょっとした悪戯を試みているのかもしれません。

あるいは、ほんとうにその日の新聞が好きなのかもしれません。

 

いえ、もしかするとアタシが日付を間違っているのかもしれません。

アタシが知らぬ間に異次元に迷い込んでいたのかもしれません。

そう考えて、思わず周囲を見回すと、

「よう、久しぶり!」

と声をかけて近づいてきたのが、大学時代の友人で、

「ああ……」

返事をしたところで、電車は駅のホームに入って停車。

「ここで降りるんだ。またな」

と、下車する彼を、

「おい、ちょっと待て」

追いかけて降りようとするアタシに、

「まだ、ここで降りたらあかん」

彼は笑顔でアタシを制止しました。

電車が動き出して落ちついて考えてみると、病気で亡くなった彼の葬儀に、アタシは出たはずでした……

去年の7月に……

 

友人の話は捏造しました。

でも、その新聞を読んでいた男性に、思い切って尋ねればよかったと、少し後悔しています。