お正月、めでたいお題をいただきました。
『富士』『鷹』『茄子』
清・正月となると、やっぱりごっつい人やな。……あれ、喜公、どこ行ったんや。……あ、あいつ、またあんなところで、何や、ぼーと見てるで……おい、喜公、そんなとこでぼーっとしてたら、いつまで経っても初詣に行かれへんで。
喜・清やん。
清・どないしたんや。
喜・扇屋て、正月に繁盛すんのんか?
清・何や、急に。
喜・いや、あの扇屋、えらい繁盛してるさかいな。
清・ああ、初夢屋か。
喜・初夢屋? 清やん。知ってんのか?
清・ああ、うちの親父があの店の先代と知り合いでな。元々は、桔梗屋いう小間物屋やったんやけど、先代が亡くなって息子の代になって、店、だいぶん傾いてたんや。
喜・その小間物屋が、なんで扇屋になってあないに繁盛してんねや。
清・そんな店に嫁に来てくれたんが、お富士さんいうてな。
喜・べっぴんさんか?
清・それもやり手や。
喜・へえ、そないに婆さんなんか。
清・あほ、遊郭のやり手婆やない。商売上手のやり手や。そのお富士さん、生まれた娘に、たかっちゅう名前をつけて、小間物屋から扇屋に商売替えしたんや。
喜・え? 生まれた娘に、たか、と名前をつけて小間物屋から扇屋に商売替えしたら、なんでやり手やねん。
清・正月に見る縁起のええ初夢が、一富士二鷹三茄子やろ。
喜・ああ、なるほど、おふじさんとおたかさんで、一富士二鷹…… それで、店の名前も、初夢屋に変えたんやな。
清・そうや。
喜・けど、なんで扇屋やねん。
清・縁起のええ初夢には、一富士二鷹三茄子のあとがあってな。
喜・へえ、四から何があんねん。
清・四扇五煙草六座頭、言うんや。
喜・四扇五煙草六座頭…… ああ、それで扇屋に衣替えしたんか。
清・そうや。そやさかい、正月三が日にはお客さんに上等の煙草も出して、近所の座頭に頼んで、ただで揉み療治もしてもらえるようにしてるんや。
喜・ああ、なるほどな、そんだけめでたいもんを正月にそろえたら、そら、繁盛するわな…… けど清やん。
清・なんや。
喜・一富士二鷹、四扇五煙草六座頭はあるけど、三の茄子があらへんで。
清・店を傾けた今の主人が、ボケ茄子や。
デンデン