天気予報的会話術

天気予報では、

「晴れ、ときどき曇り」

「曇り、ところにはよって雨」

といった表現が出てきます。

 

これまで勉強なんかあまりしたことのなかった子供が急に机に向かったかと思うと、しばらくしてまた勉強しなくなるというところを見て、

「ほんとに、お天気屋なんだから……」

と、母親は顔を曇らせます。

子供が勉強を始めるとお母さんの顔は晴れて、子供が勉強しなくなると、お母さんの顔は曇ります。

お母さんもお天気屋ですが、こちらは偏西風の影響で日本のお天気が変わるようなものではないかと思います。

 

『女心(男心)と秋の空』

とは昔からよく言われていますが、ということは、お天気同様、人間も変わりやすいとうことだと思います。

だとすると、

「もっと前向きに生きよう」

「肯定的に考えよう」

とお題目を唱え続けることは、人間という生き物の性質に反していることだと言えるのではないかと思います。

 

ここは、

「前向き、ときどき後ろ向き」

「肯定的、ところによっては否定的」

てなぐあいに、天気予報的な表現を試みるのもいいのではないかと思います。

 

「おまえ、もっと前向きに生きろよ」

と言われたら、

「いや、後ろ向き、ときどき前向きっていうのが疲れなくていいんだ」

 

「おまえ、もっと肯定的に考えられないのか」

と言われたら、

「否定的、ところによっては肯定的でいいんじゃない?」

 

前向きポジティブ肯定的ばかりでは、晴天続きで日照りに見舞われるようなものですから、時と場合によっては、慈雨のごとき否定ネガティブ後ろ向きがあってもいいのではないかと思います。

 

そんな話を職場でしておりましたところへ、

〈もっと前向き、ポジティブ、肯定的に〉

をモットーに、なにかと大きな声でうるさいことばかり言う上司が、なにやら怒った様子でこちらに近づいてきましたので、

「天気の急変に注意してください」