三題噺・オリンピック任侠伝

昨日の《三題噺の会》でいただきましたお題は〈任侠伝〉〈熱中症〉〈オリンピック〉でした。

 

弟・ねえ、彼女、一人? オレも一人やねん。一緒に飲まへん?

女・え? アタシ、彼を待ってるの。

弟・それやったら、彼氏が来るまで、どう? オレ、こう見えて、昔はオリンピックの代表候補選手やってんで。

女・へえ、オリンピックって、えらいごっつい体してるけど、何の競技やったん?

弟・何やと思う?

女・相撲!

弟・オリンピックに相撲はあらへん。

女・ほたら、何?

弟・柔道や。それも体重制限のない、無差別級やったんや。ほら、山下選手とか斉藤選手とか、最近やったら、篠原選手が有名かな。内股透かしが認めれんで、優勝でけへんかったひとやけど、今は進撃の巨人に似てるてnもんで、コマーシャルにも出てるし、バラエティ番組にも出て、オリンピックやのに、柔道の解説のオファーがない、言うて笑いをとってる人。

女・ああ、知ってる、知ってる。

弟・オリンピック選手で柔道やってても、止めたらお笑いで生きていけるやろ。そやからオレもそうしょうかと思うてんねん。

女・けど、何か暑苦しい。

弟・そうやねん。夏のオリンピックは熱いやろ、そやからね、チュー、しよう。

女・え?

弟・そやから、ね、チューしょう。……ね、ちゅうしょう、熱中症には気、つけんとね。

女・何、それ?

弟・面白なかったかな、そしたら(女の肩に寄りかかって)、これはどう?

女・ちょっと、肩、重い!

弟・キミはボクに片思い、なんちゃって。

女・あほらし。

兄・おい、ここにおったんか。

弟・あ、兄貴。

兄・兄貴やあらへんで。しばらく顔、見せへんなと思てたら、こんなとこで女、口説いてたんか。

弟・いや、そんな、顔も見せんと女、口説いてたわけやないんで。

兄・ほな、顔も見せんと、何してたんや。

弟・いや、たまたま、顔、見せられへんかっただけで……

兄・お前、オレんとこへ来たときのこと、覚えてるか?

弟・え? ええ。

兄・お前、柔道でオリンピック行くのあきらめて、任侠道に生きたいと思うてます、言うて、なんで任侠道やねんて、聞いたら、昭和任侠伝を見ました、言うさかいに、お前も高倉健サンに憧れたんか、言うたら、春蝶師匠の昭和任侠伝で、そら、落語や、てなこといいながら、それから、ちょうど4年や。お前はようやってきたと思うけど、ほんまは、また、柔道やってオリンピックを目指したいんやないか。

弟・そんな、いまさら、オリンピックやなんて……

兄・いや、お前が、顔を見せんようになったんは、ちょうど今年のオリンピックが始まろかという頃や。

弟・いや、それは……

兄・お前、もういっぺんがんばってみい。任侠道なんてすっぱりやめて、柔道でオリンピックを目指せ。

弟・兄貴。

兄・もう今日からオレのと所には来るな。ええか。わかったか。

彼・おい、マリ、こいつら何や。

女・ああ、ケンちゃん、待ってたら、この人らが勝手に座って、アタシを口説くのよ……

彼・何? 口説いた? (兄貴分と弟分に向かって)こら、ようもオレの女に手え出してくれたな。ただですむと思うな、こら!

兄・(弟分に向かって)あ、あかん。お前は早う、ここから立ち去れ、こんなところで喧嘩沙汰になったら、オリンピックに出られへんようになる。

彼・こら、逃げんのか!

兄・早う行け。こいつ、誰彼なしで何するかわからん。無差別にやる奴や。

弟・兄貴。

兄・何や。

弟・無差別やったら、オレの出番です。

                                  デンデン