三題噺・大棟梁選

昨日、伝楽亭文化祭に参加しました。

もちろん、落語会にも三題噺で飛び入り出演いたしました。

いただきましたお題は『秋祭り』『大統領選』『風邪ひき』でした。

 

平・こんにちは。

甚・おお、誰や。……お前、平兵衛か。

平・へえ。ご無沙汰しております。

甚・ご無沙汰や言うて、お前、何年ぶりや。……ええ、ありゃ、お前が、おさよを死なせてからになるから…… もう十年になるか。

平・へえ、おさよを死なせてしもうてから、ワタシも心入れ替えて、大工の仕事、地道にさしてもろてます。

甚・ああ、そうか、お前、心、入れ替えたか…… ほんで、今日は何しに来たんや。

平・へえ。その、こないだ、甚兵衛さんがえらい風邪を引いたっちゅう噂を、風の便りに耳にいたしましたんで、それでまあ、不義理も重ねてるこっちゃけど、ちょっとお見舞いにでもと、こない思いまして…… あの、これ、しょうもないもんですけど、お見舞いの品っちゅうことで、どうぞ、お納めを……

甚・そんな、お前、見舞いやなんて、気ぃ、遣わんでもえもええのに。(受け取る)

平・ほんで、お風邪のほうは、どないです。

甚・ああ、まあ、見ての通り、こないになんとかようなったけど、まあ、えらい目に遭うたな。

平・なんや、『秋祭り』で引いたとか、うかがいましたけど。

甚・そうや。『秋祭り』でわしがいろいろ差配してたんやけど、この、神輿の担ぎ手が、若い者が最近は少うなったやろ。ほんで、まだまだ若い者には引けはとらんぞと、わしも片肌脱いで神輿を担いだんやが、これがいかんかったんやな。あの日、昼過ぎてから雨も降ってきて、ほんでまあ、『風邪ひき』っちゅうことになって、鼻水は出るは、咳は出るは、熱は出るはで、ほんまにえらい目に遭うたな。

平・そうでっか、そら、また大変でしたな。

甚・まあ、そうは言うても、熱が下がって、まあまあ、このとおりや。

平・そら、よろしゅおました。……そうそう、熱と言えば、アメリカの『大統領選』、熱が入ってきましたな。

甚・おお、そうやな。おもろいことになってるみたいやな。

平・なんや、大統領候補のトランプが、次にどんなカードを切るか、それをヒラリーが、どう、ひらりとかわすかっちゅうとこみたいで……

甚・お前、うまいこと言うな。

平・韓国の大統領もわかりまへんな。

甚・わからんか。

平・朴大統領の支持率があないに落ちてしもてまっしゃろ。ほんで大統領の任期がまだ1年以上残ってて、あの支持率で、さあ、1年を、ウネウネやっていけんのんかっちゅうとこで……

甚・朴大統領がウネウネか、おもろいこと言うな。

平・実は、ワタシも大棟梁選に出ることになりまして。

甚・え? お前が『大統領選』に出るて、どういうことや?

平・へえ。実は、この十年、地道に大工をしてまいりまして、棟梁、みたいなこともさしてもらうようになって、ほんで、こないだ友達から、大工の棟梁を束ねる、大棟梁選に出てみいひんかと、こない言われまして。

甚・ほお、大工の棟梁を束ねる大棟梁を決める選挙か。

平・へえ。まあ、出たい者が手ぇ挙げて立候補するアメリカとは違うて、日本では、一応、周りのみんなから担ぎ出されて、っちゅう形で、みな、立候補しまっしゃろ。まあ、もちろん、ワタシみたいな者が、大棟梁なんて、そんなもん務まるわけない、ちゅうたんですけど、いやいや、お前みたいにしばらく悪いことして心を入れ替えた者の方が、人の上に立てるもんや、と、まあ、その友達がこない申しまして、それやったら、大棟梁になって偉そうにしたり甘い汁吸うたりするんやのうて、やらしてもうてもええかと思いながら、それでも、〈人を遣うは苦を遣う〉と言うさかいに、どないしょうかいなと考えもしたんでっけど、今までの罪滅ぼし、恩返しのつもりで、務めさせてもうてもええのやないかと思いまして、ほんで、大棟梁選に出ることにしましたんや。

甚・お前、ほんまに心、入れ替えたんやな。

平・ところが、選挙となりますと、これ(人差し指と親指を丸めて)が入りまっしゃろ。ワタシ、そんなつもり、毛頭ありまへんでしたさかいに、そんな金なんか用意してまへんねん。そんで、甚兵衛さんに、ちょっと助けてもうたら、ありがたいなぁと、こない思てますねんけど……

甚・そうかそうやったんか。そしたら、なんとかしたらいかんな。(奥に向かって)おい、そこのそれ(指差して)、持ってきてくれ、そうそう、それや(受け取って中からなんぼが手ぬぐいに包む態で)今、急なことやさかい、これぐらいしか都合つかんけど、また、改めて来てくれたら、もう少しまとまったもん用意できる。これ、持っていけ。

平。ああ、こら、すんまへん。(受け取って)ほな、これ、遠慮のう、使わしてもらいます。さいなら。

甚・ああ、しっかりやりや。……まあ、人間というのは、心さえ入れ替えりゃ、何でもでけるもんやな。ほんまに、よかったな。

清・こんにちは。

甚・おお、誰や思うたら、清八やないか。どないしたんや。

清・お風邪の具合はどないですか。

甚・うん、まあ、見てのとおりや。だいぶん、ようなった。

清・そら、よろしおました。

甚・なんや、見舞いにきてくれたんか?

清・ええ、まあ、それもおますんやけど、甚兵衛さんとこに、平兵衛、来まへんでしたか?

甚・ああ、今しがた、来てたで。

清・あっちゃ〜! 来ましたか。

甚・どないしたんや。あいつ、見舞いに来た言うて、心、入れ替えて、地道に大工やってる、言うてたで。

清・そんときに、アメリカの大統領選挙の話、しまへんでしたか。

甚・してたで。

清・トランプが、次、どんなカード切るか、言うてましたか。

甚・言うてた。言うてた。

清・それをヒラリーがどうひらりとかわすか、言うてましたか。

甚・言うてた。言うてた。

清・韓国の朴大統領、支持率下がって、残りの任期、ウネウネやっていけるんやろか、って言うてましたか。

甚・言うてた。言うてた。

清・ほんで、自分も大棟梁選に出ることになったと……

甚・それも言うてた。

清・選挙には金がいるから、助けてくれ……

甚・言うてたで。

清・ほんで、なんぼか出しましたんか。

甚・そら、心入れ替えて、罪滅ぼしや恩返しや言うてたさかいな。

清・それが、そうやおまへんねん。

甚・どういうことや。

清・そんな話をちょっと耳にしましたんで、あちこち聞いて回ってみると、あの、平兵衛、心入れ替えるどころか、相も変わらず飲む打つ買うの三拍子、女は泣かせる、不義理は重ねるで、とうとう借金で首が回らんようになって、方々で金、騙して取ってるっちゅう話でんねん。

甚・あの、平兵衛、大棟梁選に担ぎ出されたてなこと言うて、ほんまはわしを担いだんや。

                                   デンデン