三題噺・落語福袋

いただきましたお題は、

《忘年会》《福袋》《黒豆》

 

夫・今、帰ったで。

妻・あら、えらい、早かったんやね。今日は《忘年会》やなかったん?

夫・まあ、そうやねんけど、連日の《忘年会》やったしな。……おい、ケン坊、こんな時間や、子供は早う寝なあかんで。……ケン坊、もう、寝んかい。……おい、坊、寝んかい。坊、寝んかい《忘年会》。……よしよし、おやすみ。

妻・あんた。

夫・なんや。

妻・久しぶりやね。

夫・何を勘違いしてんねや。違うがな。今日ぐらい早う帰らんと、仕事ができんさかいな。

妻・あら、仕事やなんて、もう御用納めやなかったん?

夫・そっちの仕事は済んでるやけどな、ほれ、伝楽亭が1月2日から新春落語会を開くやろ。そこでお客さんに《福袋》を配ることになったんやけど、その袋を、伝楽亭の高座に上がってる者が、一つずつこしらえることになってな。ほんで、袋はこないしてもろてきてんねんけど、これに、なんやかや入れなあかんねん。

妻・ああ、そうやったんかいな。ほんで、何を入れるの?

夫・まずは、伝楽亭で売ってる、丹波の《黒豆》、うちにもあったやろ、それをちょっと入れとこ。……ああ、そこにあったな…… 1キロの袋、そのまま入れんでもええ。そこから、ちょっとだけ…… そうそう、それだけ、入れとこ。……それと、新年の餅も一つ。

妻・お正月やけど、お餅やなんて、そんなもんでええの?

夫・落語に〝尻餅〟があるやろ。あれ、餅をついてる音をさせる噺や。

妻・ああ、なるほど。

夫・それから、そこにある饅頭も入れとこ。

妻・お饅頭って、なんで?

夫・〝まんじゅうこわい〟っちゅう落語があるやろ。

妻・ああ、そうやね。

夫・冷蔵庫に、豆腐が入ってたな。あれも、入れよ。

妻・ちょっと待てな。……あ、この豆腐、消費期限切れてるわ。

夫・そら、ちょうどよかった。

妻・消費期限の切れた豆腐なんかあかんやろ。

夫・ええねん、ええねん。〝ちりとてちん〟は、腐った豆腐を食わせる噺や。……それから、そこの、あんぱんも入れよ。

妻・あんぱんって、落語にアンパンマンは出てけえへんよ?

夫・〝動物園〟で、トラが子供に、「パンくれ」って言うところがあるやろ。

妻・ああ。

夫・ほんでな…… ああ、そこに置いてあるピストル、それも入れよ。

妻・ピストル? ピストルって、あんた、これ、ケン坊のおもちゃやで。それに、ピストルが出てくる落語なんてあらへんやろ。

夫・〝阿弥陀池〟に入った強盗が持ってたやろ。

妻・ああ、なるほど。

夫・ケン坊には、また本物のピストル買うたろ。

妻・あほなこと言いな。

夫・ははは…… ついでや、そこにある笛も入れとこ。

妻・ああ、これ〝一文笛〟の笛やね。

夫・いや、それ夜店でケン坊に買うたったんやけど、わしが指、入れて抜けんようになった笛や。

妻・そら、〝道具屋〟の笛や。

夫・それと…… ああ、その隅に転がってる一升徳利。

妻・一升徳利なんて、やっぱり落語に出てくんの?

夫・〝池田の猪買い〟で、喜六が池田の田んぼで見つけたのが、頭が一升徳利で蓑と笠が着せたある、トックリと見なんだら、身の(蓑)の一生(一升)の過ちやなんて、粋なところがあるんや。

妻・ああ、そうやったね。……ああ、そしてら、このお札も入れよ。

夫・なるほど、〝牛ほめ〟の秋葉さんのお札やな。

妻・ほか、何、入れよ。

夫・いや、もうこんだけ入ってたら十分やろ。ほんまの落語会でこんだけの落語やったら、お客さん、疲れてるところやさかいな…… そやから…… ああ、最後に、あのミカン、一つ入れとこ。

妻・最後に〝千両みかん〟か〝みかん屋〟でお開きにするんやね。

夫・いいや。もう落語はええねん。

妻・ほな、このミカンは?

夫・おみか〜ん(お時間)!

                                  デンデン