三題噺・寺興し

A「はよ、来い来い」」

B「ちょっと、まってくれ、山寺でも、こない山の中とは知らなんだ」

A「ほれ、もうそこや」

B「その前に、水、飲ませてくれ(ペッとボトルの水を飲む)」

A「もう、ええか。(門を叩いて)」

坊「どなたじゃな」

A「村興しのプロジェクトで、打ち合わせに来ました」

坊「おお、待っておりましたぞ。さあ、中へどうぞ」

A「(中に入って)おお、これはまたすばらしい。(本堂から外を見て)いやあ、なかなか『風光明媚』なところですな。この景色だけでも十分、観光客は喜びますよ。けどまあ、これに音楽がつくと、もっとええ雰囲気になりますよ」

坊「音楽と言いますと……」

A「たとえば、お坊さんが何人も寄ってお経を上げる、声明が巷では人気ですから、ことらでも『般若心経』を音楽にすると、風情が出ますよ」

坊「なるほど」

A「それに、あと、おいしいもんがありますと、観光客もぎょうさんきます」

坊「うまいもんですか」

A「ええ。この土地の名産と言いますと、『あごだし』がありますでしょ」

坊「『あごだし』とは、いかがなものですかな」

A「トビウオの出汁です」

坊「トビウオですか。寺方では、魚肉は食しませんでな。どのようなものでしょうか」

A「ならば、少々、お待ちください。(Bを振り返って)おい、この湯飲みに、『あごだし』をついで……」

B「へえ。(ついで)これで……」

A「(受け取って)これでございます。どうぞ」

坊「なるほど、では、少しいただいて(飲んで)ん? これは、ただの水ではないか」

A「(湯飲みを受け取って中を見て)あ、ほんまに水や。(Bに向かっって)あほ、こらは水やないか」

B「すまん。間違えて、さっきわしが飲んだ水を入れてそもた」

坊「こら、おまえら、〝だし〟ぬいたんか」

                                   デンデン