「そのスーツ、ステキですね」
「ありがとうございます。でも、これ、洋服の青山で6000円だったんですよ。そんな風には見えませんでしょ」
「へえ、そうなんですか?」
「実はこれ、洋服の青山の新規開店セールで半額以下になってたスーツなんですけどね、ほんとは30000円ぐらいするそうなんですよ」
「へえ、そうなんですか?」
「そんな風には見えませんでしょ」
「ええ」
「私が着るとね……」
と、相手を煙に巻いたような、わけのわからん笑いをとっていた方がいらっしゃいましたので、アタクシもそれを職場でやってみました。
「このスーツ、洋服の青山で6000円だったんですよ。そんな風に見えませんでしょ」
「見えるで。ほな……」
別の人を見つけて、
「このスーツ、洋服の青山で6000円だったんですよ。そんな風には見えませんでしょ」
「それがどないしたんや。今、忙しいんや」
今度は、それらのやりとりを横で見ていた人に、
「このスーツ、洋服の青山で6000円だったんですよ。そんな風に見えませんでしょ」
そしたら、
「キミ、落語の『ときうどん』って、知ってるか」
と尋ねますから、
「もちろん、何度も見てますから」
と答えましたら、
「前にうまいことやった奴の真似して、アホが失敗する噺や」
なんてエラそうなことを申しますので、アタクシ、
「それがどないしんや」
「ほたら、落語の『つる』、知ってるか」
「もちろん、何度も見てますから」
「忙しそうに仕事してる友達が、いらん、言うてるのに、無理矢理鶴の名前の由来を聞かそうとするアホの噺や」
「それがどないしたんや」
すると、
「すまん」
と相手が謝りましたので、
「なんで謝るんですか」
と尋ねましたら、
「何とわからせようと思うた、わしが間違うてた……」