落語『池田の猪買い』に、こんなクダリがございます。
甚・橋ない川は渡れんてなこと言うで。
喜・なんの、渡れんことおまへんで。
甚・どないして渡る。
喜・船で渡ろか泳いで渡ろか。
甚・それではことが大胆な。
その大胆なことをやってのけたのが、愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業所から脱走した平尾龍麿容疑者でした。
もしかしたらと思っていた方も少なくはなかったと思いますが、潜伏していた尾道市の向島から泳いで海を渡ったというほどの体力気力があれば、窃盗犯なんぞにならなくてもよかったようにも思います。
中学時代の友人の話も報じられていましたが、運動神経はよかったようですからオリンピックでもプロスポーツでも、挑戦できたのではないかと思います。
でも、脱走の理由が、
《人間関係が嫌になった》
あと少しで出所できるのに、なぜ……
という報道も当初ありましたが、どうしてもう少し我慢できなかったんだろう、てなことを例によって例の友人に申しましたら、
「キミも我慢せんとすぐに辞めるやろ。人間関係が嫌になったら」
世の中、枠の中でいかに人間関係をうまく構築するかというところばかりが注目されがちですが、辞める決断をする際のエネルギーが次のステップにつながることもあるのでは……
「キミの場合、そんなエネルギーもないよね」
なにはともあれ、向島の皆様には安心できる生活がもどり、よろしゅうございました。
平尾容疑者には、また別の刑務所に行くことで人間関係も変わるだろうと思いますから、罪を償って更生されることを願っております。
泳いで海を渡れる力を持っているなら、世間の荒波をうまく泳いで渡っていけるようにも思います。