今頃になって、山本周五郎先生の短編集『人情裏長屋』(新潮文庫)を拝読しました。
山本周五郎先生といえば、この『人情裏長屋』『さぶ』『樅の木は残った』『日本婦道記』『赤ひげ診療所』など、代表作が並んでいますが、案外、軽妙洒脱な筆法を見せてくださっているのが、『人情長屋』に収録されている『風流化物屋敷』でございます。
「これが旧幕時代となると化物の基本的人権が確認されていたので、かれらの跳梁跋扈はあたかも黄金境の観を呈し、幽霊もののけ妖怪変化、死霊いきりょう魑魅魍魎、狐狸草木のたぐいまでが人を脅し世を騒がしては溜飲をさげていた。」
〈化物の基本的人権が確認されていた〉
などは序の口で、
〈跳梁跋扈は黄金境の観を呈し〉
で思わずそれがし膝を打ち、
〈幽霊もののけ妖怪変化〉
と七七調子。
さらに続けて、
〈死霊いきりょう魑魅魍魎〉
脚韻踏んで、もう一つ、
〈狐狸草木のたぐいまで〉
並べて、
〈人を脅かし世を騒がして〉
と対句に続け、最後に、
〈溜飲をさげていた〉
と落として、世の中のなんやかやに患わせております読み手の溜飲もさがるようでございます。