「誰か、話のわかる人に代わってください」
と言われたら、あなたはどうしますか?
家庭に、営業の電話がかかってくると、どこの誰か名乗ったあとで、
「御主人様はいらっしゃいますか?」
という台詞が続きます。
それに対して、
「御主人様の〈様〉はいりませんよ。敬語が間違っていますよ」
と、いつも指摘する高齢者が、
「誰か、話のわかる人にかわってください」
と言われたそうです。
親会社の財務担当者の言葉に、子会社の役職者が
「よくわかりませんが……」
と首を捻ると、
「誰か、話のわかる人はいませんか?」
と言われたそうです。
唐の詩人、白楽天は、詩が出来上がると、文字が読めない老婆に聞いてもらって、わからないと言われたところを書き直したそうです。
かつてNHKの人気番組《週刊こどもニュース》を担当された池上彰さんの著書《伝える力(PHP研究所)》には、
『子供たちが「わからない」と言ったら、わかるまで書き直す』
と記されています。もちろん、子供を対象にした番組に携わっていたからということもありますが、池上さんは、その経験から、
『子供にでもわかるような説明ができるように、自分自身が理解していることが重要だ』
という趣旨を、同書で述べられています。
電話をかけてきた営業担当者は、高齢者の指摘に気分を害したのかもしれません。
親会社の財務担当者は、自分の説明に首を捻る子会社の役職者にいら立ちを覚えたのかもしれません。そのいら立ちの底には、子会社は親会社の言うことに黙って従え、という気持ちがあったのかもしれません。
でも、
「誰か、話のわかる者に代われ」
という言葉が、どれだけ無礼な言葉か、それを発した彼らは気づいていません。
あるいは、それを発する自分がどういう人間か、わかっていません。
子会社の役職者は、
「いえ、他にわかる者はおりません。私にもわかるように説明してください」
と、笑顔で応じたそうです。