オブラートに包んだ悪意の言葉

 先日、ある女性と話しておりましたら、

「私には男っぽいところがあります」

とおっしゃって、

「自分で考えて判断して行動するところ」

を、理由にあげていらっしゃいました。

 そのときは、

「ああ、そうなんですか……」

てな、応答しかできませんでしたが、欧米だったら、そんな思い込みにとらわれる女性はいないのではないかと、今頃になって思っています。

 ドイツのメルケル首相をはじめ、欧米には女性の政治家、リーダーが数多くいらっしゃいます。それは、つまり、自分で考えて判断し、行動する女性の存在が、決して珍しくないということを意味しています。

 だとしたら、自分で考えて行動できる女性を、男っぽい、と評する方に問題があるように思います。

 いやいや、自分で考えて行動する者に、男女いずれかのレッテルを張り付けること自体が、ナンセンスではないか、とも思います。

 もしかしたら、その女性は、自らそう感じたのではなく、誰かに言われて、自分自身を男っぽい、と思い込むようになったのではないか、なんてことまで勝手に想像してしまいます。

 しかし、もしそうだとしたら、彼女にそんなことを吹き込んだ者に、悪意があったのではないか、てな疑念まで持ってしまうのは、やっぱりワタクシが歪んでいるせいかもしれません。

 

 悪意が、ここでは、殺人犯が持つ殺意などを必ずしも意味しません。相手にちょっとした精神的な傷を与えようとする意志を指します。一見して悪意とは感じさせないような、言葉のオブラートに包まれて投げつけられる悪意です。

「あほ、ぼけ、かす、ぷっぷ~!」

てな、そんな直接的な言葉ではありません。

 だから、

「あなたって、男っぽいところがあるよね」

という、単純な感想にしか聞こえないような言葉に、本当は傷ついたという経験をお持ちの女性は少なくないのではないかと思います。

 たとえば、

「あなた(君 お前)はまだ結婚しないの?」

なんてのは、その筆頭と言えるでしょう。さらに、

「あなた(君 お前)のためを思って言っているんだ」

てなお為ごかしぐらいが続いて、

「あなた(君 お前)らしくない」

とか、あるときは疑問形にして、

「あなた(君 お前)は何がしたいんだ」

とか、また、あるときは、

「あなた(君 お前)のことがよくわからない」

とか、いかにも[あなた]を理解しようと努めている、てな素振りを見せるといった手練手管を駆使して[あなた]にスポットライトを当てる。しかし、そのセリフのほとんどは、発言者のイメージの枠の中に[あなた]を閉じ込めておかないと自分の自信が失われてしまう…… そんな身勝手な思いがあるのではないかと、これも勝手に想像してしている次第でございます。

 でも、そうやって、気づかれぬように悪意を投げつける族ばかりかではないかもしれません。そんな意識すら持たずに、自分は相手のことを本当に思っているんだと信じて、してのける手合いもいるでしょうが、その方がもっと質が悪いかもしれません。

「戸締り用心火の用心、悪意の言葉は打ち返せ カ~ン!」

 

ここまで例の友人に話したところで、

「それで、キミは何が言いたかったんだ?」