昭和擁護論

 某企業の役員を務めておられた方が定年退職後、関連企業の外部役員となって会議で発言したところ、

「それは、昭和の考え方でしょ」

 と一笑に付されたそうです。

 ご本人は、

「わしの考えなんぞは、もう通用しない時代になったんだな……」

と、ひどく落胆されていましたが、『昭和は古い』というイメージがいつのまにか世の中に定着してしまっている感があります。

 でも、会議でこんな発言が出る企業には、明るい未来はないように思います。なぜなら、温故知新の発想などまったくないばかりか、令和にふさわしい何かすばらしいアイデアがあるはずだ、という幻想に憑りつかれていることが窺えますから。

 『歴史は繰り返す』、という言葉が真実なら、昭和、いう言葉を用いて、一括りに時代遅れの遺物であると否定する者には、新たな天啓が与えられることはありません。ばかりか、過去に犯した過ちを繰り返す可能性も否定できません。

 さらに、時代が進むと、

「それは、平成の考え方でしょ」

「それは、令和の考え方でしょ」

 などと言い換えられて、昭和を否定した者はのちの時代の人間に否定される憂き目を見ることにもなるでしょう。

 その時代の元号を冠した政党なんぞは、そのうち、歴史の古い与党より遅れた発想しかできない団体としてイメージされるかもしれません。

 昭和を侮る者は、時代を軽視する族であると言えるのではないかと思います。

 

 こんなことを例によって例の友人にいたしましたところ、

「キミの場合、時代についていけていない自分を擁護しているだけだよね」