イノベーションの象徴

江戸落語上方落語という分類は、いずれ消滅するのではないかと思います。

大阪府池田市を皮切りに、社会人落語、アマチュアの落語大会が各地で開催されるようになり、観客として笑っていた素人が、演者として自ら高座に上がって観客を笑わせる時代になりました。

しかも素人落語の世界では、今や堂々と方言で落語を語り、おまけにそれがプロより会場を沸かせる、爆笑を呼ぶようになっているという有様ですから、そのうち、北は北海道の蝦夷落語から、東北、みちのく落語、北陸なら百万石落語とか日本海落語、瀬戸内落語に四国落語は坊ちゃん落語とか、九州落語ではクマモン落語やらご当地キャラが語る落語なんかも出てきたりして……

国内がそうなら、桂枝雀師匠によって広められた英語落語もそのうちに更なる発展を遂げて、グローバル落語とかなんとかに名称が変化し、さらには無国籍落語ヨーロピアンスタイルとか落語イタリアンなどに分化していった挙げ句に、そんなことならいっそ地球から宇宙へ飛び出して、コスモ落語やスターダスト落語、果ては落語・座・スペースファンタジー、あるいは非常にマニアックな宇宙戦艦ヤマト落語にガンダム落語など……いや、ちょっと待ってください。

確か、講談ではすでに『ガンダム講談』が一部マニアの支持を得て新たな分野となりつつありますが、それを考えると、実は講談の方が落語より進んでいるのかもしれません。

そういえば、かつては男社会だった東京の講談界では、今では女性講談師の方が男性講談師より圧倒的に多いそうですから、講談界は、安倍総理の推進する女性の社会進出を先取りしている業界でもあります。

落語は地方の素人噺家によって、そして講談は女性によって、新たな時代を迎えているのかもしれません。

古いものの中にこそ、実はイノベーションの萌芽が潜んでいることを証明する象徴が、落語・講談ではないかと思います。