三題噺・今夜の急用

今日もお題をいただきました。

〈手品〉〈幽霊〉〈男前〉

 

喜・甚平はん、いてはりまっか。

甚・おお、喜ィさんかいな。ずいぶん久しぶりやな。しばらく病気やっちゅう話は聞いてたけど、何や忙しゅうて、結局、見舞いにも行かずじまいで、すまんかったな。

喜・そんなん、別に、かましまへん。

甚・まあ、元気になったんやったら何よりや。……けど、まだ顔色はようないみたいやな。大丈夫か?

喜・へえ、あんまり、大丈夫やおまへんねん。

甚・おいおい、無茶はしいなや。……久しぶりに来てくれるのはうれしいけれど、体の具合がようないのに、えらい遅い時間に来てもらうと、なんや気ィ使うな。

喜・すんまへん。今夜は、ちょっと、その、急ぎで、どうしても聞いておかないかんことができましたんで、ほんで、こんな時間になんですけど、寄せてもらいましたんや。

甚・急ぎでどうしても聞いておかないかんことができたて、何や?

喜・あの……幽霊。

甚・幽霊? 幽霊って、手ぇをこないして(内側にした手の指先をそろえて下に伸ばしながら)うらめしや〜て言う、あの幽霊か。

喜・へえ、手ぇこないして、うらめしや〜って言う、あの幽霊で…… なんで、こんな手ぇすんねやろ、と思いまして。

甚・また、けったいなこと聞きにきたな。そら、手のひら見せたら、なんやおかしいやろ。はーい、タネも仕掛けもありませんって、幽霊やのうて手品師になってしまうやろ。

喜・ほな、そのまま、上、向けたら……

甚・また来週(手を振る)……、やっぱり手のひらは内側に向けなあかん。

喜・(指先は上に向けたまま手のひらを内側にして)ほなこないしたら……、それでは手術を始めます。

甚・手術を始めるときに、ほんまもんの医者は、その手ぇを胸の前で交差させてるんや。

喜・やっぱり甚平はんや。何でもよう知ってまんな。さすが、町内の生き地獄。

甚・誰が生き地獄や。それも言うなら、生き字引やろ。

喜・そうそう、そのびきそのびき。……ほんで、見たことありまんの?

甚・何か、手術か?

喜・いや、幽霊。

甚・紛らわしい聞き方しいな。さすがに幽霊は、見たことない。

喜・見たことない幽霊、なんでそないに知ってまんねん。

甚・そら、浮世絵やなんかに描いたあるさかいな。

喜・へぇ、どないに描いてます?

甚・どない描いてるて……、幽霊、言うたら、みな別嬪に描いたあるな。

喜・ほな、幽霊、言うたら、皆、別嬪ばっかりでっか。

甚・そうやな、ぶっさいくになると、幽霊やのうて、化けもんになるな。

喜・へぇ、そら、おもろいもんでんな……。ほんで、何ですか、男の幽霊はいてまへんのか?

甚・男の幽霊も浮世絵なんかに描いたあるな。

喜・やっぱり男前でっか?

甚・まあ、男の幽霊はあんまり関係ないな。

喜・ああ、よかった。そしたら、わいでも大丈夫でんな。

                            デンデン