抜き噺『くやみ前』

昨夜、大阪千林の伝楽亭に行きました。

 

学生さんが中心の落語会で、面白かったのは、『近日息子』の抜き噺……

 

落語『近日息子』は、まだ元気な自分の父親の葬儀を近日に行いますという予告を、少し足りない息子が芝居に倣って掲げたところ、長屋の住人がそろってくやみを言いにくるという噺です。

本筋から外れたところが長々と語られるのが、落語の特徴の一つですが、この『近日息子』は、その典型です。

 

くやみを言いにきたはずの長屋の住人同士で、くやみを言う前に、まったく関係のない会話がどんどんエキサイトしていくクダリがそれにあたるところで、『近日息子』の笑いの大部分がここにあります。

そこを演じたいと思って『近日息子』を自分のネタに選ぶ噺家は、プロアマ問わず、少なくないのではないかと思います。

 

昨夜の『近日息子』では、タイトルにもなっている、ちょいと足りない息子と父親とのやりとりは完全にカットして、その長屋の住人のエキサイトするシーンだけを、学生さんが演じていました。

 

終演後の打ち上げで、

「あれは『近日息子』やないで」

「ほな、何や」

「そうやな…… 『くやみ前』ってなもんか」

「なんや、島崎藤村『夜明け前』みたいやな」

「案外、名作になるかもな」

「ははは…… そんなことより、そこの、“天ぷら喰いたい”……」

「それなら、そこにある、“ホース”をこっちへ……」

「そうくると、“ねまき”も注文しよか……」 

 

申し訳ありません。

マニアックな展開になってしまいました。

よくわからなかった方は、『近日息子』をお聞きください。