お盆に極楽

近所にある、ショッピングモール内の家電量販店に並べられているマッサージチェアーに、今日も乗ってしまいました。

 

大昔に比べれば、性能は格段によくなりました。

リモコンには多彩な機能が集約されていて、単にうねうねと動くだけだったもみ玉は、押す、叩く、揉む、といった複雑な動きをこなすようになり、手足にも締め付けては緩めるという動きが、とても気持ちよく、最高級品に座ると、そのまま夢の世界に連れて行かれるようです。

 

値段も格段に下がりました。

百万円近かったのが、最高級品でも四十数万円で販売されています。

 

たとえば、事務所なんか設立して、このマッサージチェアーを一台、据えておけば、自分もいつでも極楽に行けますし、来客にも喜んでもらえます。

 

そんなことを夢想しながら、一通りマッサージを終えると、

「いかがでしたか」

と、笑顔で担当者が近づいてきます。

「いや、昔に比べると、もう、格段に気持ちがよくって、もう、極楽にいるような気分です」

「そうですね、どんどん性能がよくなっていますからね」

「ホントに、これが一台あるとええなぁ……」

「そうですよね。せっかくですから、一台、いかがですか?」

「そうやなぁ…… まあ、欲しいところやけど、やっぱり先立つものがなぁ……」

「昔のことを思えば、かなりお安くなっておりますよ」

「そりゃまあ、そうですが、それでも……これ、四十万以上でしょ」

「その辺は、ご相談に乗りますよ」

「え! 安くしてもらえますか」

「ええ。お盆の特別セールですから」

「それはええな。そしたら、千円ほど……」

「ああ、千円ぐらいでしたら、勉強させてもらいます」

「いや、ちゃうちゃう。このマッサージチェアー、千円に負からんか、言うてまんねん」

「は? 定価から千円引きでは……」

「誰がそんなケチな値引きで喜ぶんや。四十万円を千円にしてくれっちゅうてんねん」

 

そんな落語があったような気がしながら、せめてお盆の間は、ずっと極楽に通おうかと……