修学旅行で行った先で、クラスメイトから普段は、〈のろま〉と蔑まれていた女子生徒が、実はその地域のお大名の正当な血筋を引く人物で、その土地の歴とした人々から敬意をもって迎えられたことから、世が世ならお姫様だったということを知らされたクラスメイトたちが、たちまち〈おっとりしたおひい様〉として彼女に接するようになったというお話を、数十年前にそのお姫様の同級生だったという、かつての女子学生から、今日、うかがいました。
こういうケースでよく使われるのが、
『手のひらを返したように……』
という言葉です。
それから連想いたしましたのが、内田康夫さんの『浅見光彦シリーズ』で、主人公がただのルポライターではなく、実はエリート官僚の弟だと知れた瞬間、待遇が変わるという、お約束のシーンです。
そういえば、それによって歴史に名を刻んでいる戦国武将も少なくありません。
現代でも、目にされたことのある方は少なくないと思いますし、実際、得意技だという方もいらっしゃるかと思います。(自らそれを告知される方はいらっしゃらないと思いますが……)
昔から、芸や技は教わるモノではなく、盗むモノだと言われていましたが、そんなことを言っていたのでは、その技術なり芸が後世に継承されない時代になりました。
しかし、この《手のひら返し》は、特に誰かが継承しなくても、また誰かから教わることがなかったとしても、その気になれば誰でも実践できる技です。
これまで、怠惰な人生を送ってきて、特技の一つもないアタシは、このさい、この《手のひら返し》を会得しようと思い、まず、手始めに例の友人に試みようとしましたが、いち早くそれを察した彼が、
「《手のひら返し》には《しっぺ返し》という返し技がつきものだが、当然、キミは承知しているだろうね……」
と言って、少し残酷な笑みを見せましたので、アタシはすかさず、微笑みを浮かべて、
「お引っ越しのお祝い返しは微笑みにして〜」