《近日息子》の『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』

『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』

という言葉は福沢諭吉氏の《学問のすゝめ》に記された名言として知られていますが、

「『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』なんて嘘っぱちじゃねえのか!」

と声を大にして言いたい方もいらっしゃるかと思います。

でも、人に限らず、天はすべてのものに上下の区別なくお造りになっていらっしゃるはずです。

そう考えると、

『天は万物の上に万物を造らず万物の下に万物を造らず』

と言うのが、よりよいのではないかと思います。

だとすると、

『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』

という人間限定のこの言葉は、ちょいと了見がせまいのではないかとも思えてしまいます。

ただ、当時の時代背景を考えれば、まさに啓蒙的な言葉だったと言えます。

 

それが、現代でも取り上げられるということは、今もそうなってはいない、と思っておられる方が多いということかもしれません。

でも、実際、〈天〉は人の上にも下にも人を造ってはいません。

ですから、たとえば〈天〉の代わりに、他の言葉を入れてみたほうがいいかもしれません。

 

「え? 『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』という、福沢諭吉さんの有名な言葉を知らないの?」

という状況には、

『知識は人の上に人を造り人の下に人を造る』

 

「え? 福沢諭吉も知らない? 1万円札に印刷されている人だよ…… 野口英世なら見たことある? 」

だったとしたら、

『経済は人の上に人を造り人の下に人を造る』

 

その他、

『情報は人の上に人を造り人の下に人を造る』

『環境は人の上に人を造り人の下に人を造る』

『組織は人の上に人を造り人の下に人を造る』

なんて、いっぱいできそうです。

でもいろいろ考えてみると、結局、

『人は人の上に人を造りたがり人の下に人を造りたがる』

ということになりそうです。

だからこそ、

『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』

が、語り続けられることになるのでしょう。

 

「どう、『人は人の上に人を造りたがり人の下に人を造りたがる』なんて、名言でしょう」

と、例の友人に自慢したところ、

「〈天〉だけ残すほうが味のある台詞になるよ」

「たとえば?」

「天ぷら食いたい」

 

ごめんなさい。

知らない方にはわからない、苦し紛れのオチでした……