死語を検索しておりましたところ、〈ほの字〉が出て参りました。
「ほれる」
の最初の文字だけを取り出した言葉です。
時代劇などを見ておりますと、
「おう、金の字は来ているか」
などと、これもその人物の名前の最初の文字だけで呼んでいます。
日本には直接そのものを指し示さない文化があるようですが、室町時代に御所に仕える女房が使い始めたと伝えられる女房言葉も、それらの言葉の発祥に関係しているのではないかと思います。
たとえば、お寿司は〈おすもじ〉、鯉は〈こもじ〉と言われていたそうで、現在でも残っております〈しゃもじ〉も、元はこの女房言葉だったということです。
〈御の字〉という言葉は、江戸時代、遊郭で使われ始めた言葉のようで、アタクシなんぞも、
「もうそれだけ笑ってくだされば、御の字でございます」
なんて使えるだけで、言葉の世界に生きる人間といたしましては、御の字でございます。
そうした言葉を死語の世界に追いやるのは、日本の文化の一つを死後の世界に追いやるような所行にも思います。
「あなたにほの字、だけどあなたの知らない字……」
なんて粋な表現は、もう消失してしまう運命にあるのでしょうか……
こんな話を例によって例の友人にいたしましたところ、
「キミの場合、『あなたにほの字』は死語ではないよ」
と、珍しくうれしいことを言ってくれたかと思って喜びましところ、
「あなたにほの字、なんてキミには無縁の字……」
「それは、アタシにほれる女性なんかいないってことなのか……」
「皆まで言わぬが、日本の文化じゃ」
デンデン