双葉文庫《妖異》と岡本綺堂大先生の『猿の眼』

双葉文庫《幻異》に続いて、《妖異》も読みました。

日本推理作家協会賞受賞作品のアンソロジーですから、その多くは怪異譚でありながらミステリーでもあるという趣向で、読者には謎解きの楽しみもあります。

 

ただ、たとえば中島らも先生の『琴中怪音』は、そのその不思議の正体が詳らかにされないままという古典的な、また、山村正夫先生の『断頭台』は、不条理な結末になんら解説を加えることのない作品で、アタクシ、個人的には、合理的な説明が付随するミステリー的怪異譚より、こちらのほうを好みます。

 

中島らも先生の系統で申し上げますと、岡本綺堂大先生の『猿の眼』(旺文社文庫《影を踏まれた女》)がやはりその最高峰に位置するものではないかと思います。

なにしろ、出所不明の猿の面に髪を掴まれて……

「キャー!」

思い出すだけで、

〈全身の毛穴が開く〉

〈背筋に冷たいものが走る〉

〈恐怖に身がすくむ〉

どんな常套句を使っても表現しきれない、

〈えも言われぬ正体不明の恐怖〉

が身中に甦ります。

 

《幻異》の山田風太郎先生の『雪女』や日影丈吉先生の『眠床鬼』も、そうした可能性を持った作品ではあるかと思いますが、見事にその怪異の謎が解明されておりました。

 

奇を衒った安直な怪異現象を扱うばかりでは芸も何もありませんが、なんでも論理性、合理性を求める風潮にある現代社会であればこそ、不条理な恐怖が必要なのかもしれません。