手塚治虫の奇妙な話

手塚治虫先生生誕90周年を記念して出版された『手塚治虫の奇妙な話』(発行・株式会社はちどり 販売・株式会社主婦の友社)に掲載された作品を拝読いたしますと、その発想、創作力に感嘆いたします。

 

『時計仕掛けのりんご』は、アントニー・バージェス氏の小説のタイトル『時計仕掛けのオレンジ』からの発想であることは、つとに知られているようです。

 

『虎人境』は、中島敦先生の『山月記』をモチーフにした作品だろうと思います。

 

『熟れた星』は、星新一先生のショート・ショートにありそうな作品です。

 

『グロテスクへの招待』は、医学者である手塚先生と同じく医学を学んだ山田風太郎先生の短編小説に近い発想のように思います。

 

ブラック・ジャック 雪の夜話』は冬の幽霊譚の趣があります。

 

こうしてみますと、

〈漫画の神様〉

と称される手塚治虫先生の創作の源泉にあるのは、先人たちが残した、あるいは現代の膨大な作品であることが伺えます。

同時に、そこには人間に対する慈しみの心もあるように思われます。

 

ですから、手塚治虫先生の奇妙な話は、奇妙に見えて実はすこぶる人間的な話であるとも思いました。

 

イデアを絞り出すためには、汲めども尽きぬ源泉が不可欠であるはずなのに、どれほどその源泉を豊かに育む機会をアタクシは逃してきたことでしょう……

 

いまさら手塚治虫先生のような創造力を自身に求めるような贅沢は申しませんが……

 

(ほな、贅沢言うな!)