大学でフランス語を教えていらっしゃる先生とお話をする機会がありました。
フランス語やドイツ語には、名前にも男性名詞、女性名詞があって……
でも、日本語にはそんな名詞はありません。
たとえば、フランスで、出かけようとうする娘が厳格な父親に、
「どこへ行くんだ?」
「友達のうち」
「友達って?」
と問われたときに、明らかに男女どちらかか明確になる名前が示されることになります。
ところが、日本語だと……
「どこへ行くんだ?」
「友達のうち」
「友達って?」
「ゆみ」
「ああ、そうか、だったら気をつけていきなさい」
と、『ゆみ』が本当は『弓太郎』という男の子だということを、厳格な父親に覚られないように言えます。
曖昧な表現で、勘違いさせることができるのが日本語で、嘘を言っている訳ではありません。
日曜日なんかに出かけようとする夫が、妻に、
「どこへ行くの?」
と問われて、
「うん、友達とゴルフに……」
「友達って、誰?」
「ああ……トッちゃんだよ」
「トッちゃんって、確か、あんたが行きつけのスナックに新しく入った女の子が、時子でトッちゃんだったわね」
「……」
「正直に白状せい!」
そんな区別がなくても、日本語ではあまり困ったことにはなりません……
いえ、余計に困った事態を招くだけかもしれません。