嫉妬の隠し方

芥川龍之介氏の『鼻』の主人公・禅智内供は、他者とは違う自分の大きな鼻をとても気にしていましたが、周囲の人々が面と向かってそれを話題にすることはありませんでした。

ところが、鼻を小さくすることができると、周囲の人々はあからさまに彼を笑うようになります。

 

普段、地味な服装で目立たない人が、何かの折に華やかな服装で登場すると、揶揄の対象になることがあります。

「馬子にも衣装って言うし……」

「無理して似合わないかっこうして……」

 

昨日までの同僚、あるいは後輩が、世の脚光を浴びるようになると、たちまちその人を悪く言う輩が出てくることがあります。

「たいした実力もないのに……」

「そのうち痛い目に遭うよ……」

 

あるいは、台頭してきた若手に、

「実力と人気が伴っていない……」

「十年早い……」

 

揶揄したり批判したりするのは、その人が嫉妬しているからです。

そういう人たちのバッシングは勲章だと思えば、変身のための第一歩が踏み出せる場合もあるのではないかと思います。

また、そうした揶揄や批判は、素知らぬ顔でやりすごせばそのうち収まりますし、時間が経てば、鼻や服装に対する違和感もなくなり、脚光を浴びるのにふさわしくなるでしょう。

 

嫉妬は、人間を小さく見せてしまいます。

ですから、周囲にいる誰かが新たな第一歩を踏み出そうとしたら、揶揄や批判ではない応対を心がけることが重要ではないかと思います。

そうすると、人間が一回り大きく見えます。

「さて、お手並み拝見といきますか……」

「まあ、この先どうなるか、楽しみにしましょうか……」

 

人間が嫉妬心から逃れるのは、やっぱり難しいのかもしれません。

 

そこで私がよく使うのは、

「やあ、さすがにたいしたものですね〜。できたらアタシにもおこぼれを……」