かつてお正月と言えば、海老一染之助染太郎さんご兄弟の太神楽で、和傘の上でコマやら升やら土瓶やらを回す芸が定番であったかと思います。
20020年にお兄さんの染太郎さんがお亡くなりになってからは、弟の染之助さんがお一人で頑張っておられたようですが、本日お亡くなりになったという報道がありました。
「いつもより余計に回しております」
という、お兄さん、染太郎さんの言葉は、今なら流行語大賞にノミネートされたであろうと思われるほど、流行っておりました。
居酒屋に何人かで入りますと、
「取り皿、皆に回してくれ」
なんて声がかかりましたときに、その場でぐるぐるお皿を回しながら、
「いつもより余計に回しております」
てなことを申しますと、
「あ〜ほ〜……」
などと、よくやったものでございます。
この、
《いつもより余計に回しております》
は、あちこちで使える言葉でございまして、
「ぼちぼち帰り支度をしているところに上司がやってきて、
『これ、頼む』
などと言われて、一応、
『いや、今日はもう帰るところでして、急に仕事を回されましても……』
と言うたんやけど、
『いつもより余計に仕事をまわしております』
てなことを言われて遅うなったんや……」
などと、遅効の理由にも使えましたし、
「洗濯、今日はなかなか終らんな……」
「いつもより余計に回しております」
なんて小話にもできて、ついでに、
「今月、ちょっとお小遣いが足りへんさかいに、なんぼか回して……」
「ほな、いつもより余計にお金を…… 回せるかい!」
長年、全力で芸を披露してくださった染之助さんには、お亡くなりになったというよりも、おめでたいお正月を迎える前に芸を仕舞われた、と申し上げた方がよろしいようにも思います。
御冥福をお祈りいたします。