もう一つの『走れメロス』

「あれ……メロスやないか」

「おお、待ってたんや、セリヌンティウス

「待ってたって、どういうことやねん?」

「実はな、妹が結婚んすることになったんや」

「ああ、それはよかった、おめでとう!」

「うん、それでな、その準備のための買い物に来たんや」

「それやったら、先にうちに寄ってくれたらよかったのに」

「そのつもりやったんやけど、なんや街の様子がおかしかったんで、通りすがりの爺さんに聞いたんや……」

「え! そんなこと聞いたんか?」

「そしたら、その爺さん、王様は人殺しやって言うやないか。そんなことを聞いてしもたら見過ごせへんやん。そやから、そんな王様はいらん、いっそおらん方がええやろと思うてここにやってきたんやけど、捕まってしもうてな、はははは……」

「そら、当たり前や」

「それでまあ、取り調べられて短刀が見つかって、そんな王様はいらんやろと正直に話したら、お前は磔の刑やと言われたんやけど、それは困る、妹を結婚させてからにしてくれって頼んだんや。それやったら、身代わりの人質を用意せえ、もしお前が帰ってけえへんかったら、その身代わりを磔にする……、ほんでまあ、お前に来てもらうことにしたんやけど、身代わりの人質になってくれるやろ」

「いやや」

 

太宰治さん、ごめんなさい。