あるとき、《正直の頭に神宿る》ということわざを知った殿様が、家来たちにおっしゃいました。
「この領内で、一番の正直者に、褒美をとらせることにする。正直者を募り、余の前で正直な気持ちを述べさせよ。それによって、余が正直者を決めて、褒美として、百両を取らせる」
ということで、早速、このお触れを出しますと、何人かの村人が集まり、殿様の前で正直な話をいたします。
親孝行と評判の男は、
「正直、疲れました。毎日、寝たきりの親の面倒を見ていると、いっそどこぞの山中に捨ててしまおうかと思うてしまいます」
若く美しく、貞女の鏡と評判の妻女は、
「本当のことを申し上げます。姑に言いなりの夫には愛想がつきました。できましたら、幼なじみの清八さんと所帯を持ってやり直したいと思います」
毒舌を吐くために村人から嫌われている男は、
「正直に言うと、一番の正直者に褒美を取らせるなんて茶番は止めたほうがええだ」
「それはどういうことじゃ?」
「だってそうだべよう。親不孝者だとか、不貞を働く女房だなんて言われるだろ。正直な話をすると……」
「じゃが、それにもかかわらず、皆、正直に申してるぞ」
「そりゃあ、正直、みんな百両が欲しいからだ」
「なるほど。そういうことなら、褒美は誰にも取らさぬ」
「殿、それでは村人は承知いたしませぬ」
と家来が口を挟むと、
「正直、百両が惜しゅうなった、余が一番の正直者じゃ」