愛の話法

先日、職場で昼食の話題になって、

「子供にはもう作らなくなっているのに、毎朝、主人に弁当を作っているんですよ」

と、ある女性がおっしゃいましたので、

「きっと、そのへんの定食なんかより、奥さんのお弁当がおいしいんですよね」

てなことを例によって口にいたしましたところ、傍にいらっしゃった別の女性が、

「うちのは、もう弁当はいらないって言うんですよ」

と、言われたので、

「それは、ご主人が、奥さんに手間をかけさせまいと気を使われているんですよ」

なんてことをぬけぬけと申しあげましたところ、お二人、声をそろえて、

「さすが!」

 

ここで、冗談のつもりで、

「毎日のお弁当で、経費節減になりますからね」

とか、

「どんなにおいしい奥様のお弁当でも、やっぱりあきるでしょうしね」

とか、言ってしまうと、以後、奥様方はアタシと親しく口を利いてくれなくなります。

 

「会話の要諦は、隠し味の愛に気づくことだよ。だから、『さすが』って、皆さん、喜んでくれる」

と、例の友人に自慢いたしましたところ、

「お二人は、『さすが』の後に、『口先男』と言いたかったんだと思うよ。そこまで口にしなかったのは、まさに奥様方の愛の話法だろ……」