異性にもてない言い訳をひねり出す。

「女性にもてるためには、どうすればいいんでしょうね?」

 若いときに友人に相談したところ、

「そりゃ、車を買って彼女をドライブに連れていく。ちょっとお洒落なマンションを買って一人住まい。経済的にゆとりのあるところを見せて、さらに長男でなければ、申し分ないよ」

 と言われて、一度は自分自身に照らし合わせて、なるほど、と思いはしましたが、当時、勤めておりました会社の(友人とも面識のある)同僚をふと思い出して、

「うちの会社の、ほら、あの人、数年前に購入したマンションに一人暮らしで、休日は車を乗り回していますよ。しかも、次男。でも、うちの会社の女性社員の評判はよくありません」

 と申しましたところ、

「ああ、あの人には、また、別の問題があるんだよ」

 即座に答えた友人にも、彼女はいませんでした。

 その点を問うと、

「ああ、オレ……、そのなんだ、長男だからさ」

 

 異性にもてるもてないに限らず、うまくいかない理由や、何かに取り組もうとしない口実には、いくつかの型があるようです。

 〝能力がない〟〝時間がない〟〝役に立たない(無駄)〟といった打消し型。

 〝運が悪かった〟〝相手が悪かった〟〝体調が悪かった〟という悪かった型。

 その他、血液型や星の巡りあわせ、占い、果ては、前世の因縁から死んだおやじの遺言、ついでに「最善を尽くしました」「努力はしました」てなアピールまで、よくもまあ、考え付くものだと感心するほど、人間は言い訳を口にします。

 

 『アドラーの心理学入門』(岸見一郎 KKベストセラーズ)によりますと、

「人生の課題を回避するための口実で、他の人のみならず、自分も欺いている」

 そうです。

 心理学を冠した書籍を読んでおりますと、その人が口にする欠点には、〝傷つきたくない〟〝プライドを守りたい〟という感情が、その深層にあることがうかがえます。

「長男で車もマンションも持っていないから女性にもてないんだ」

 と宣うかたの深層にどんなプライドがあるのでしょうか?

 

 てなことを例の友人に申しましたところ、

「少なくとも、君の言い訳はいつも言い訳になっていないよね」