人間に生まれる確率から何が言えるのか?

 人間に生まれる確率、人間として生まれる確率は、50億分の1だとか70兆分の1だとか、とにかく宝くじが当たるどころの騒ぎではないほど低い確率だ、というお話を、先日、焼き肉をごちそうになりながら知人に伺いました。

 人間に生まれる確率を計算した数字は他にもいろいろ出ていると思うけど、そんなん、いったいどないして計算したんやろ?

 人間として生まれてくる確率が計算できるとしたら、ゴキブリに生まれたかもしれない可能性についても計算できるんとちゃうか?

 そしたら、人間に生まれる確率とゴキブリやライオンや三毛猫のオスやミドリムシやマグロに生まれる確率をはじき出すことも、さらには比較することもできるんやないか?

 そないなると、もしかすると、人間に生まれることがそないに珍しいことやない、てなこともわかるかもしれへんのんとちゃうか?

 けど、人間が養殖したり交配したり繁殖させたりしてる動植物として生まれる確率も計算に入れないかんのんとちゃうか?

 てなことを、考えてしまいました……

 その知人は、すこぶる常識的な方で、

 「人間として生まれてくることは、ものすごいことや。奇跡やな」

 てなことを上ロースを焼いては口に運びながらおっしゃっていましたから、

 「それって、人間として生まれたことは、とってもラッキーなことやと言うことなんでしょうか。それとも、むっちゃくちゃ運が悪いということになるんでしょうか」

 と尋ねましたら、

 「この牛、運がよかったんかなぁ……」

 そうおっしゃりながら、トングでカルビをひっくり返してビールを飲みほすと、

 「おかわり!」

 このような数字を挙げて、人間に生まれたあなたは奇跡的な存在なのだから、もっと前向きに生きなければいけない、という主張をなさる方は、少なくないと思いますが、たとえば、そんな言葉だけで、そしたら、ワシ、もうちょっと頑張ってみよか…… などと、前向きに生きようなんて簡単に思ってしまう人は、さあ、どれほどいらっしゃるでしょうか。

「そおか、そら、たいへんやなぁ…… けど、人間が、人間として生まれてくる確率は70兆分の1やそうやから、わしら、人間、みんな、運が悪いんやで。人間に生まれたんが因果と思うて……」

 さだまさしさんが作詞、作曲された『無縁坂』では、お母さんを見て、運のよしを謳っています。聞いている方は、曲調から、お母さんは運がよくなくて苦労されたんだなあ、というイメージを抱きますが、もしかしたら、そのお母さんは、

 「母さんはね、運がよかったんだよ。だから、こうしてお前を育てることができたんだよ」

 とおっしゃるかもしれません。