人間の心が消えてしまえば幸せになれるのか?

山月記』では、詩人として名を成すことができず、虎に変じた主人公・李徴が、

「俺の中の人間の心がすっかり消えてしまえば、恐らく、そのほうが、俺はしあわせになれるだろう」

と告白します。

人間としての苦悩がなくなることによって、しあわせを手に入れることができる、と捉えることができます。

 

夏目漱石氏は『私の個人主義』の中で、

「自己に安心と自信がしっかり付随している」

ことが、幸福だと述べています。

「ああ、ここに俺の進むべき道があった!」

ということによって、

「心を安んずることができる」

とあります。

 

しかし、もしそうだとしたら、自分の進むべき道として詩人を志し、世に名を成そうと決意した李徴は、どうして安心と自信が得られぬまま、虎に変じてしまったのでしょうか……

その点についても、『山月記』では触れています。

『私の個人主義』にも、『山月記』と同様の事情が記されています。

 

それでも、私はやっぱり手っ取り早く虎になりたい……