『福田村事件』と『君たちはどう生きるか』

 たとえば松本清張先生の小説を読んでおりますと、その犯行が行われた時間、「映画を見ていた」と容疑者がアリバイを述べる場面があります。

 営業なんかで外回りをしているけれど、気晴らしに映画を見ていた、という供述は、最初から見たい映画を決めていたのではなく、映画館で、たまたま上映していた映画を観た、ということでしょう。

 そのやり方で、私もちょいちょい映画を観に行きます。

 近年は、シネマコンプレックス、複数のスクリーンでいくつかの作品を上映する映画館がありますから、空いている時間に行って、たとえば十分後とか三十分後とか、とにかく一番早く上映が始まる映画を観る、てなことをやっております。

 昨年、秋ごろ、大手の映画会社の影響下にはない、いわゆるミニシアターで、そうして観てしまったのが、森達也監督の『福田村事件』でした。館内に貼ってあるポスターだけを見てチケットを買って…… 

 その『福田村事件』は、現在も上映されています。ミニシアターで数か月にわたって上映される映画は、非常に珍しいのではないかと思います。

 宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』も、昨年夏から封切られて、やはりロングヒットとなっているばかりか、先ごろ、アメリカのゴールデングローブ賞、アニメ映画賞を受賞しました。

 しかし、『福田村事件』には何もありません。

 世間で評判になっているから見た、読んだ、行った、というものよりも、たまたま自分だけが発見したという喜びを、できれば毎日、得たいようにも思います。

 映画館に限らず、ふらりと立ち寄った先で、そんな幸せが得られるかもしれない、と思いながら、さて、今日はどこへ行きましょうか?