佐々木裁き後日譚『引き込み女』

 今月4日(日)に、大阪は千林にございます伝楽亭にて『第2回 悪人噺の会』を開催いたしました。

 今回は、客席でゆっくり見ていようと思いましたが、小なんさんがお出でになれなくなったと、前日、連絡があって、急遽、ワタクシが、悪女の部の一席を代演いたしました。

 そのときにお聴きいただきましたのが、古典落語にございます『佐々木裁き』の後日譚『引き込み女』でございます。

 『佐々木裁き』は、佐々木信濃守が大阪西町奉行に着任してから市中をお忍びで見舞っておりました折、お裁きをまねて遊んでおりました、桶屋の、十三歳になる四郎吉の賢明なところを見込んで、十五歳になってから養育することにした、という落語でございます。

 

 その後、佐々木信濃守の下で役人として勤めておりました四郎が、今は盗賊の一味として引き込み(押し入る商家にあらかじめ使用人として入り込んで手引する)役になっておりました幼馴染、お京の密告によって、立野の猿ノ助一味を捕らえます。佐々木信濃守がお白洲で裁きを下す際に、一味は極刑としましたが、お京には、密告の働きによって罪一等を減じる旨を言い渡そうと致します。しかし、お京はこれを拒み、四郎にとって自分を忘れられぬ女とするために、さんざん悪態をついてた挙句、極刑を望みます。

 お裁きを終えて、

四・あの、引っ込み思案だったお京が、まさかに盗人の一味になっていようとは、いま

 だに信じられまあせぬ。

佐・いや、引っ込み思案なればこそ、引き込みを働いたのであろう。

                                   デンデン

 

 ええ、正直に申し上げますと、『悪人噺の会』前夜、池波正太郎先生の『剣客商売』をモチーフにいたしまして、『佐々木裁き』の後日譚という態でこしらえました。

 

 いっぱいのお客様のうち、小なんさんをお目当てにお越しくださった、たくさんのお客様にはご不満もあったかと思いますが、どうぞ、こらえてやってください。

偽名の二人

 ほぼ半世紀前に指名手配されていた霧島聡が、死期をさとって、

「本名で死にたい」

 と名乗り出たというニュースがありました。

 その後、死亡した霧島本人か否かを確かめるために、DNA鑑定が行われているとのことです。

 

 「おい、小池!」というインパクトのある手配書で注目を集めた小池俊一は、本名を名乗ることなく、2012年に岡山市で病死しました。

 

 二人とも、偽名で社会に隠れ住んでいたわけですが、霧島は死を前に、どうして本名で死にたいと思ったのでしょうか?その一方で、小池は死んでも本名を名乗るつもりはなかったのでしょうか?

 

 もしかしたら、偽名による逃亡人生は、自分自身の人生を生きていないことになる、と霧島は考えたのかもしれません。もしかしたら、偽名であっても、逃亡犯としての自分の人生を、小池はまっとうしたのかもしれません。

 でも、自分の人生をまっとうして生きているかどうか、てな問いは、もしかしたら、偽名を使って生きた指名手配犯の他にも投げかけることができるかもしれません。

 

 ネット社会となった現代は、本名を隠して誰かを誹謗する者が跋扈する時代です。そうした族は、指名手配犯と同じく、悪事を働いている自分の本名が明らかになって罪に問われることを恐れている、そのような立場に自らを置いているかのようにも見えますが、どうでしょう。

 

 あ! 誹謗中傷は厳に慎んでいますが、このブログもそうでしたぁ~。

 ということは、私は自分の人生をまっとうしていないのかも……

 

 

 

 

 

異性にもてない言い訳をひねり出す。

「女性にもてるためには、どうすればいいんでしょうね?」

 若いときに友人に相談したところ、

「そりゃ、車を買って彼女をドライブに連れていく。ちょっとお洒落なマンションを買って一人住まい。経済的にゆとりのあるところを見せて、さらに長男でなければ、申し分ないよ」

 と言われて、一度は自分自身に照らし合わせて、なるほど、と思いはしましたが、当時、勤めておりました会社の(友人とも面識のある)同僚をふと思い出して、

「うちの会社の、ほら、あの人、数年前に購入したマンションに一人暮らしで、休日は車を乗り回していますよ。しかも、次男。でも、うちの会社の女性社員の評判はよくありません」

 と申しましたところ、

「ああ、あの人には、また、別の問題があるんだよ」

 即座に答えた友人にも、彼女はいませんでした。

 その点を問うと、

「ああ、オレ……、そのなんだ、長男だからさ」

 

 異性にもてるもてないに限らず、うまくいかない理由や、何かに取り組もうとしない口実には、いくつかの型があるようです。

 〝能力がない〟〝時間がない〟〝役に立たない(無駄)〟といった打消し型。

 〝運が悪かった〟〝相手が悪かった〟〝体調が悪かった〟という悪かった型。

 その他、血液型や星の巡りあわせ、占い、果ては、前世の因縁から死んだおやじの遺言、ついでに「最善を尽くしました」「努力はしました」てなアピールまで、よくもまあ、考え付くものだと感心するほど、人間は言い訳を口にします。

 

 『アドラーの心理学入門』(岸見一郎 KKベストセラーズ)によりますと、

「人生の課題を回避するための口実で、他の人のみならず、自分も欺いている」

 そうです。

 心理学を冠した書籍を読んでおりますと、その人が口にする欠点には、〝傷つきたくない〟〝プライドを守りたい〟という感情が、その深層にあることがうかがえます。

「長男で車もマンションも持っていないから女性にもてないんだ」

 と宣うかたの深層にどんなプライドがあるのでしょうか?

 

 てなことを例の友人に申しましたところ、

「少なくとも、君の言い訳はいつも言い訳になっていないよね」

マウント取るとか取らないとかなら、じれったい!?

 世間で言うところの、マウントを取りたい、自分が優位であることをアピールしたい人は、多分、特別な人ではありません。承認欲求があるのが人間の性だとしたら、優位性の誇示はまさにその行きつく先を象徴するものだと考えられます。だから、誰にでもマウントを取りたいという欲求があると言えます。

 ただし、上司部下、先輩後輩といった上下関係が明確であったとしても、ことさらにマウントを取ろうとするのは、立場上の、あるいは人間として自信が備わっていない証拠でしょう。パワハラ上司は、その最たるものと言えますが、そんな奴に限って、自分はパワハラ上司ではない、と言い張ります。

「なあ、おれ、パワハラ上司じゃないよな?」

 なんてことを、部下に高圧的な態度で言います。

「それがパワハラや!」

 とツッコミをい入れる部下がいたら、その上司がパワハラ上司ではないことが証明されますが、まあ、そないな上司と部下はめったにお目にかかれません。

 ただ、実際にマウントを取ろうとする族は、それによって周囲の人の評価が違ってくるということに、どれほど気がついているでしょうか?

 常に謙虚な方は、周りの人々から丁寧な扱いを受けて、ことさらにマウントを取るまでもなく、マウントを取らせてもらうこともあります。

 反対に、自らマウントを取ろうとする族は、そのために周囲の誰彼を蔑むことになって、人から妬まれ疎まれ、嫌われていることを知りません。知っていたとしたも、忌避される懸念よりも、その場でマウントを取りたい衝動に負けてしまうのでしょう。

 厄介なのは、家族、特に、夫婦です。

 封建時代の常識で考えれば、マウントを取っているのは夫だというイメージがありますが、妻がわざとマウントを取らせている、てなケースは、落語を見ていると珍しくないことがわかります。池波正太郎先生原作の『鬼平犯科帳』の主人公、長谷川平蔵は、決して偉そうにふるまうことなく、妻を労わっています。

 ところが、「妻(女)は夫(男)に従うものだ」てな思想が染みついている御仁のパートナーは、実に生気の失せた表情をされています。逆の場合もあります。マウントを取ろうとする女房殿のご亭主は、毎日不快な思いを抱えて生きていらっしゃいます。

「マウントを取る」

 という言葉が耳目に触れるたびに、どっちが優位だなんてことではなく、相互に尊重する意識を持つことが大切だと思いながら、中森明菜さんが昔お歌いになっていたフレーズがいつも脳裏を走ります。

「マウント取るとか取らないとか、そんなのどうでも関係ないわ~♬」

彼女は、氷山の一角か、ファーストペンギンか?

 人気を誇る芸能人が、女性に性的な行為を強いるという事件は、古今東西枚挙に暇がありません。

 被害者の一人が現れるたびに、

「これは氷山の一角である」

 という論評が流れます。この他にも明らかになっていない被害者が存在するという意味で、それは間違ってはいません。だから、同様の被害者が現れるわけですが、でも、最初に告発した女性が、ファーストペンギンと呼ばれることはありません。

 なぜでしょうか?

 他の人に先駆けて、周囲から非難を浴びることも承知の上で、つまり、危険を冒して最初に海に飛び込むファーストペンギンとして、彼女の勇気は称賛されてもいいように思います。

 しかし、氷山の一角と評されても、ファーストペンギンにされないのは、そうしたくない族が決して少なくないということことではないかと、密かに思います。

 氷山の一角と論じるだけなら、露見していない氷山の大部分に身を潜めていることは可能です。

 でも、ファーストペンギンには、必ず後に続く者がたくさん現れます。

 2022年には、映画監督から俳優があぶりだされました。

 「#Me too」は、世界を席巻しました。

 おそらく、そんな事態に追い込まれたくない族に限って、

「恥ずかしくないのか?」

「本人にも落ち度があるんだろう」

 なんてことをのたまう形で、後に続くペンギンの行動を制しようとしているのではないかという考えには、また、非難が集まるかもしれません。

 ただ、非難する方、特に匿名でそのような行為に及ぶ人には、よけいに、

「非難しなければならない特別な理由があるのですか?」

 と質問したくなります。

 

 こんなことを、こっそり例の友人に語りましたところ、

「君のように、清廉潔白でありたいものだ」

 と皮肉を言われてしまいました……

 

 新年4日より、同じはてなブログで【先生! 思考遊戯の時間です!】を始めました。よかったら、そちらも覗いてやってください。

舛添要一氏の厚生労働省アンケート批判……

厚生労働省が無料通信アプリLINEと協力して、新型コロナウイルス対策のために実施したアンケートについて、元厚労相舛添要一氏が、ツイッターで、無意味だとか、利用者には迷惑だとか、厚労相のリーダーシプが感じられないとか、船頭多くして船山に登るだとか、批判したそうです。

 

LINEのアンケートに答えたのは、アプリ利用者8300万人のうち2450万人だそうで、この数字が利用者が迷惑だという舛添氏の批判の裏付けになるのでしょうか……

 

厚労相にリーダーシップがないという根拠になるのでしょうか……

 

このアンケートが、船頭多くして船山に登る、ということわざを証拠になるのでしょうか……

 

もしかしたら、SNSという表明手段が、舛添氏の主張を不完全なまま伝えたということでしょうか……

 

それとも、舛添氏の嫉妬がその批判の元にあるのかもしれません……

 

今回は、そんな話を例の友人には話しませんでした。

 

「そんなことを考えてしまうキミも、自分の境涯に不満があって歪んだ見方しかできないんだよね……」

 

て返されことが、わかっていますから……

コロナビール!

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、不急不要の製造を止めるようにというお達しを出した政府に応じて、メキシコの大手ビール会社は、コロナビールをはじめとする五つの銘柄の製造中止を発表したそうです。

実際、風評被害もあったそうですが、わざわざコロナビール製造停止などと報じられると、コロナと名前がついているだけで、そんなことになるんかと思ってしまいますが、ころなだけでないなら、頭からそう書けよ! とついつい思ってしまいます……

 

大阪には、コロナホテルという名前のホテルがありまして、昔、仕事の関係でちょいと立ち寄ったりしておりましたホテルを、新型コロナが流行り出した頃、どこかのテレビ局がちょいと話題しているのを見かけて、他に報じなあかんことがあるやろ! とやっぱり激してしまいました……

 

ビールでもホテルでも、名前は大事です。

その名前を守ってきた人のことを思えば、軽々しく報じることがどれほどの罪か、少しでも考えてもらいたいところです。

 

すいません。

今日はげきすることばかり載せてしまいました……