即興の日本文化

日本の文芸には、即興の文化があります。

 

たとえば、平安時代、歌合わせの会を前に、

「高名な歌人である母親の和泉式部から、歌の助言の手紙は届いたか」

中納言定頼卿にからかわれた小式部内侍が、

大江山生野の道の遠ければまだふみも見ず天橋立

と即興で返した話は有名です。

 

たとえば、短歌の上の五・七・五に、別の誰かが七・七を続ける連歌は、万葉の大伴家持から始まって、平安時代には歌人の余技、遊戯となり、鎌倉時代には貴族の間で即興でその優劣を競う遊びになりました。

 

たとえば、江戸時代に四方赤良などが興じた狂歌にも即興性が求められ、古典にも落語にもそれらは残されていますが、元は万葉にその源流があるそうです。

 

いよいよ明後日、《三題噺の会》が開催されますが、客席から頂戴した三つのお題を即興で一つの噺に仕立てるということに対して、

「すごいことをやりますね。即興で噺を創るなんて、難しくて私にはできません」

とおっしゃる方がいらっしゃいますが、

「それほどたいしたことではありませんよ。単に、日本の即興文化の継承をしているようなものですから……」

なんてことを先日も悟り澄ました顔で申し上げておりますと、傍でこれを聞いておりました例の友人が、

「キミの場合、落語のネタを覚えるほどの暗記力もなく、また、かりに、まともに落語をやったとしても、下手なことが皆に知られるだけだもんね……」

と、真相を暴露してくれました……